先日のハンドクラフトギターフェスに展示したアーチトップテナーウクレレ。
きっと、多くの方にとっては見慣れないウクレレだと思いますので、少し解説をしてみたいと思います。
アーチトップってどんなウクレレ?
基本的には、アーチトップという呼び方はフラットトップという呼び方に対して使われます。楽器の構造を表した呼び方ですね。
アーチドトップ、とか、カーブドトップとか呼ばれることもありますが、この場合のカーブ(Carve)は「削る、刻む」の意味のカーブで、道路や野球の Curve (曲線)の方ではないようですね。気をつけましょう。僕もてっきり、ボディトップが曲がってるからカーブしてるトップ、なのだと思っていました。(^^;;
ウクレレ界では「フラットトップ」という呼び方を耳にする機会は少ないと思いますが、実際のところは現在世界に流通しているほとんどのウクレレはフラットトップです。基本的にはボディトップの板が削り出しなどではなく平らな板を使っている機種のことを言います。
セイレンのウクレレにはラウンドトップなんて言う機種もありますが、これもフラットトップに対して、「トップがラウンド構造になっているウクレレ」と言うことを意味して名づけたものです。アーチトップとは構造が違うので意識的にラウンドという呼び方を選んでいます。
ギターの世界のアーチトップ、フラットトップ
ギターの世界でも、標準的なアコースティックギターは全てフラットトップです。
紀元前の時代からヨーロッパで少しずつギター製作が発展してくるのですが、基本的にはフラットトップが主体で、1800年台になってアメリカ大陸で様々なメーカーがギターを開発する中で、バイオリン製作の技術を応用してアーチトップギターが生まれて来たようです。
アーチトップギターという呼び方も使われますが、「フルアコ」(フルアコースティックギター)、「セミアコ」というような呼び方の方が馴染みがある方も多いかもしれませんね。
アーチトップの音色
アーチトップのギターは、甘く深みのあるゆったりとした音色が特徴で、その音色ゆえにロックなどよりもジャズ演奏によく使われます。
フラットトップとの音色の違いが生まれる構造的な特徴は、次のようなものです。
・トップバックの板がフラットトップよりも厚い上に、アーチ構造によって強度が増している。
・トップに接着されたブリッジ自体を弦が引っ張っているフラットトップに対して、アーチトップはブリッジを弦が押さえ込む構造。(サスティーンは少なめになる)
・ブリッジからテールピースまで弦が長く伸びているので、テンションが弱めになる。
アーチトップウクレレの製作工程
実際の製作工程を、画像を交えて紹介してみましょう。
1)トップバックの削り出し。
ここではまず、外周近くの部分の高さを揃えて削り込んでいます。
2)ボディの真ん中部分から縁にかけてのカーブをカンナを使って削っていきます。左右対称になるように気を使いますが、基本的には目で見た感じと手のひらの触感で削る量を決めていきます。
時々光にかざして影を見ると整えやすいですね。
キルテッドメイプルは木の組織が複雑に入り組んでいるせいで、カンナで削っても逆目で荒れてしまったり、デコボコになってしまったりとなかなか思い通りの曲面になってくれません。
でも、特別にスペシャルな工具が存在するわけではないので、とにかく根気で整えていきます。
3)ボディトップのスプルースもアーチを削ります。
トップ側はネックを付ける際の角度なども気にしなくてはなりませんが、スプルースはキルテッドメイプルに比べるとはるかに削るのが楽です。
ブリッジが乗る辺りはブリッジ裏面とピッタリ合わなくてはならないので、歪みのないように気を使います。
4)アーチの表側が整ったら次は内側をカンナで削り、全体の厚みが均一になるよう仕上げていきます。(厳密に言うとブリッジ周りは少しだけ厚くしてあります。)
今回はトップバック共に4ミリほどの厚みに揃えました。ボディの縁近くはボディが箱になった後にもう一度削り込みます。
言葉にすると簡単そうですが、とにかく根気良くカンナとスクレーパーとサンドペーパーで少しずつ削ります。
5 )予め曲げてライニングを貼っておいたサイドと一緒に接着し、箱になったところです。
ここからバインディングなどの加工をし、最後にリカーブと呼ばれる作業を行います。
6)リカーブ
ボディのトップバックサイドを接着する時点ではある程度厚みを整えてから箱にするのですが、最終的には箱になった後にボディの縁の部分の厚みを整える作業をします。
下に図解したような形に削り込むのですが、この作業をすることによって美しいカーブと共に、トップ板が振動しやすくなりより繊細な音色を作り出す事ができます。
非常に手間がかかりますが、大切な作業です。
この工程によって、縁部分は3ミリ前後の厚みになります。
リカーブが終わった後は、ネックセット、指板の接着、そして塗装工程に進みます。
今まで製作して来たアーチトップウクレレ
僕は、ティーズウクレレ時代を含めて、今までに何本かのアーチトップウクレレを作っています。
2000年台の初めにエレキギターやアコースティックギターの受注生産の一環として、数多くのアーチトップギターのOEM生産も手掛けていて、ボディトップの削り出しに必要な技術を会得していました。ギターを製作する人間にとってアーチトップギター(ジャズギター)を製作することは木工の技術的な面での憧れではないかと思いますが、当然のことながらそこで得た技術を使ってアーチトップのウクレレを作ってみたいという思いが出て来たわけです。
2011年、2012年に作ったアーチトップは、トラディショナルなブランコテールピースと違い、ブリッジが通常のフラットトップと同じような接着するタイプでした。
これは、デザイン的な面白さ新しさを狙ったものでしたが、今回の製作は昔ながらのブリッジとテールピースが独立したデザインを採用しました。
製作途中までは以前と同じような楕円のサウンドホールのつもりだったのですが、唐突に「やっぱ昔ながらのFホールがいいなぁ」と思ってしまったからです。
果たして仕上がった楽器の写真を見ての皆さんの感想はいかがでしょうか。どんなふうに感じていただけるのか僕としても興味深いところです。
楽器というのは面白くて、ニーズがあるから製作する場合と、楽器があるからそこに新しい音楽や演奏が生まれる場合があると思います。
このアーチトップで、どんな人がどんな音楽を演奏してくれるのか、とても楽しみです。
今後の製作予定はまだはっきりしませんが、また次回作も楽しみにしていてくださいね。
セイレン弦楽器工房 髙橋信治