グッドデザイン賞を受賞したモバイルミニベース。
ふと振り返って見ると、最初の「ウクレレベースを作りたい!」という思いから実に10年近い熟成期間を経過しての実現化でした。
出会った人々への感謝の気持ちと共に、ここにその覚書と今思う事を残します。
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僕が初めてウクレレベースという楽器に出会ったのは2005年の事。
(いや、実はもっと掘り起こせば80年代のギルドのアッシュボリイなんて楽器にも非常に興味があったのですが)
Ukulele Guild of Hawaii のエキシビションに出展した時に、カリフォルニアに工房を持つ製作家Owen Holtが作った楽器を見てすごくエキサイトしたのを覚えてます。
UGH2005レポート(http://www.ukes.jp/ts/ukulele/UGH2005_02.html)
Owenのサイトはこちら。http://www.roadtoadmusic.com/main.html
ハワイから帰国した後もずっと何とかして自分もこの新しい楽器を作ってみたいと、構造や部品の事を色々考えていました。
2007年のブログ記事。http://news.ukes.jp/2007/03/post_a7c1.html
Owenに頼んでペグと弦を送って貰い、楽器を設計し図面を書いたんだけど何だか今ひとつピンとこない。弦が太いし、その弦を巻くための専用のペグがまた大きい。何とも収まりが悪い…。うーん、どうしたものか。とモヤモヤと良い考えが思いつかないままに何年かが過ぎてしまいました。その間、アキオ楽器さんで販売してるベースウクレレに付いてるペグを使わせてもらえるなんて話も有ったのですが、やはり弦はこのゴム製の太いままで、どうもそれが気が進まない原因だったんだと思います。
ちなみにOwenのウクレレベースですが、その後今や世界的なウクレレブランドKalaの社長が興味を持って彼に声を掛け、Owenの設計とアドバイスによって量産タイプのウクレレベース開発を手がけました。結果ゴム系の弦ではもはやスタンダードになった感のあるKalaの「U-Bass」が完成し沢山のプレイヤーに愛され使われていますね。本当に素晴らしいことだと思います。
一方僕はと言えば、頭の隅にずっとベースの事が引っかかったままに何年もの間忙しくウクレレ製作に追われていました。
2011年にティーズギターからセイレンに移りハワイにimuaを設立し、そしてその営業のために訪れたドイツの楽器展示会フランクフルトメッセ。2013年の事。
imuaのブースの近くをぶらぶらと歩きながら他社の色んなブースを見ていた時にドイツの弦メーカーPyramid社の短いベース弦を発見!「うわー!こんなの有ったんだ。これ使って楽器作りたい!この弦を日本に広めなくちゃ‼︎」と興奮しながら早速担当者と交渉して話をまとめ、日本にサンプルを送って貰う約束をしました。
その後やりとりをしていて分かったのは、この弦はナイロンと銅線で出来ていて、鉄の部分が全く無いのでエレキベースに使われているマグネットピックアップでは音が出ない。だからピエゾ素子のようなピックアップでしか音を拾えないという事でした。スチール線を巻いたものはそれまでに作った事はないと。
僕としては、アコースティック構造のミニベースも魅力的だけど、やっぱりベーシストにアピールするにはいわゆるエレキベースとしての開発が必須と思い交渉継続。素材をマグネット対応の材質にすると音色が変わってしまうのでその分弦の太さを変えたり何種類もの試作品を試してやっと納得出来る音になりました。
4月17日のドイツからの帰国後は、同年5月のハンドクラフトギターフェスでの公開を目指し、アコースティックモデルとピエゾピックアップのエレキベースの並行製作(もちろん他のウクレレなども同時並行製作)で、なんと設計開始からぴったり1か月の5月17日に弦を張って完成。我ながらびっくりするような何かに憑りつかれたかのような集中力で作り上げたのでした。
完成後は、国内トップクラスのベーシストである伊藤広規さんや関口和之さん、ウクレレアーティストでもある勝誠二さんなどそうそうたるプレイヤーの皆さんに使っていただいています。感謝。
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【今回のグッドデザイン賞受賞に関して感じている事】
実はもう数年前から、GD賞にエントリ-してからは特に、「デザインって何だろう」という事を考えています。昔はデザインというのは「かっこいい形や線を書く事」が主体だったように思いますが、最近の「デザイン」という言葉に含まれる意味は、機能だったっり解決策だったり新しい展開だったり提案だったりすると思います。
そして、もっと本質的には「人に寄り添う事」が求められているのだと感じています。
今回の受賞に際しても、このモバイルミニベースが世に出る事で新しいユーザー(女性・子供・お年寄・何らかの理由で今までのベースが弾きにくい人、etc)が生まれる可能性や、新しい楽器の使い方で新しい文化(音楽ジャンルやスタイル)が生まれ、音楽を楽しむ人の裾野や世界が広がるだろうという事が評価されたのだと思っています。
それは実は僕がギター製作からウクレレに製作活動をシフトして来たこととも関係しています。とにかく、もっとたくさんの人々が気軽に楽しく音楽演奏に親しんで欲しい。生活の中に楽器を取り込んで欲しい。自分のスタイルに合った使いやすい楽器を手に入れて楽しんで欲しい。その思いはずっと一貫して僕の中にあります。
だから、今回の受賞は本当にうれしくありがたく思っています。東京までプレゼンしに行って、たった6分間だけど自分の言葉で説明できて良かった。
そんなわけで、高橋はこれからもせっせと楽器を作り続けて行きますね。
皆さん、ありがとうございます。感謝。