夜8時半。退社間際、ティーズ最若手のK君が照れくさそうに切り出す。
「俺、今日誕生日なんっすよ…」
おいおい、早く言えよ。ってか、社長、気がつけよ。
おっ、そんじゃ祝杯あげようぜ!と2人並んで自転車漕いで駅前の焼鳥屋へ繰り出す。
記念すべきハタチの誕生日。焼き鳥で申し訳ないけど、急だからしかたないね。
何でも好きな物頼んでいいぞ、なんて台詞も安上がりなのだが、彼の好きなレバーを3回もお代わりしつつ、彼女のこと、仕事のこと、ぽつりぽつりと話をする。
「社長は、『もうやめたい』とか『俺はこの仕事向いてないんじゃないか』とか悩まなかったですか?」という質問に、数秒、頭が過去をサーチする。
「…無かったね」
いや、そう聞かれてみれば。
ほんとに一瞬たりとも「この仕事が向いてないのではないか」と疑ったことはなかった。親方に怒られ怒られ仕事してた頃も。
馬鹿みたいに「これは俺の天職」と思って疑わなかった。
純粋な目をした君が、20数年後に後輩に同じ質問をされて、どんな風に答えるだろうか。